「しばらくコーヒーはお休み」と決めて、豆の袋を戸棚の奥にしまった。そんな話を、妊娠中・授乳中の方からよく聞きます。香りだけ嗅いで我慢している、という方も少なくありません。
ただ、ここ数年のカフェインレスコーヒー(デカフェ)は、正直なところ以前とは別物になっています。「代用品」ではなく、それ自体をおいしく飲むものとして選べるようになりました。この記事では、カフェインの摂り方そのものではなく、あくまで「嗜好品としてのデカフェをどう選ぶか」に絞ってお話しします。体調や量について気になることがあれば、かかりつけの医師に相談してみてください。
「デカフェはおいしくない」が過去の話になった理由
かつてのデカフェが物足りなかったのには、はっきりした理由があります。カフェインを抜く工程で、香りや甘みを担う成分まで一緒に流れ出てしまっていたのです。加えて、そもそもデカフェ加工に回されるのは価格の安い豆が中心でした。素性の平凡な豆から、さらに風味を削る。これでは、紙のような味になるのも当然でした。
流れが変わったのは、生豆の段階で低温・短時間で処理する技術が広まってからです。今では、農園やロットがはっきりしたスペシャルティ級の豆をあえてデカフェにする焙煎所も増えました。つまり現在のデカフェ選びは、「デカフェかどうか」ではなく どの豆を、どの製法でカフェインを抜いたか を見る作業になっています。
製法で変わるデカフェの味わい
カフェイン除去の方法はいくつかあり、それぞれ残る風味の傾向が違います。ここを知っておくと、袋の裏の小さな表記が急に意味を持ちはじめます。
スイスウォータープロセス(SWP)
カナダで行われている、水と活性炭フィルターだけを使う方法です。生豆を水に浸し、カフェインだけを吸着させて豆に風味成分を戻す、という考え方で作られます。
味の傾向はとにかくクリーン。角のない丸い甘さが残り、後味に雑味が出にくいのが持ち味です。一方でボディ(コクの重さ)はやや軽くなりやすいので、中煎りから中深煎りに焙煎されたものだとバランスが取りやすくなります。デカフェを初めて買い直す方には、いちばん失敗しにくい選択肢だと思います。
マウンテンウォータープロセス(MWP)
メキシコで行われている水を使った方法で、考え方はSWPに近いものです。実際に飲み比べると、SWPよりも口当たりに重みが残りやすい印象があります。
ナッツやビターチョコを思わせる、落ち着いた甘さの豆に多く使われています。ミルクを合わせてカフェオレにしても輪郭が消えにくいので、ラテ派の方と相性がいい製法です。
液体二酸化炭素抽出
二酸化炭素を液体の状態にして、比較的低い温度と圧力でカフェインだけを溶かし出す方法です。熱によるダメージが少ないぶん、繊細な香りが残りやすいとされます。
ベリーや柑橘のような明るい酸味を持つ浅煎り・中浅煎りの豆で採用されることが多く、「デカフェなのにちゃんとフルーティ」と驚くのはたいていこのタイプです。ハンドドリップで香りを楽しみたい方向け。
超臨界二酸化炭素抽出
同じ二酸化炭素でも、高圧をかけて気体と液体の中間の状態にして使う方法です。大量処理に向いていて、仕上がりが安定しています。
突出した個性より、クセのなさとバランスの良さが持ち味。毎日ごくごく飲む常備用や、ドリップバッグ・カプセルなどの手軽な形態でよく見かけます。
製法別の傾向まとめ
| 製法 | 主な産地・拠点 | 味の傾向 | 相性のいい焙煎度 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| スイスウォータープロセス | カナダ | クリーンで丸い甘さ、ボディは軽め | 中煎り〜中深煎り | まず外したくない人 |
| マウンテンウォータープロセス | メキシコ | コクが残る、ナッツ・チョコ系 | 中深煎り | カフェオレ・ラテ派 |
| 液体二酸化炭素抽出 | 欧州ほか | 香りが立つ、明るい酸味 | 浅煎り〜中浅煎り | ハンドドリップ好き |
| 超臨界二酸化炭素抽出 | 欧州ほか | 素直でバランス型、雑味少なめ | 中煎り前後 | 毎日の常備用 |
通販でデカフェを選ぶときの3つのチェックポイント
- 焙煎日が書いてあるか。デカフェは加工の工程で豆の組織がやわらかくなっているぶん、劣化がやや早めに進みます。焙煎日の記載があるお店を選び、少量ずつ買うほうが満足度は高くなります。
- 製法の表記があるか。「カフェインレス」としか書かれていない商品より、SWPや二酸化炭素抽出と明記されているほうが、味の予想が立ちます。書いてあること自体が、作り手の姿勢のあらわれでもあります。
- 飲み方から焙煎度を逆算する。ブラックで香りを楽しむなら中浅煎り、ミルクを入れるなら中深煎り。デカフェは通常の豆よりわずかに味の芯が細くなるので、ミルクに合わせるならしっかりめの焙煎を選んだほうが満足できます。
通販での買い方、シーン別に
まず一袋、様子を見たいとき
いきなり定期便に入るより、評価の定まったお店で一袋試すのが安全です。ブルーボトルコーヒーのオンラインストアにはデカフェの豆に加えてドリップバッグもあり、器具を出す元気がない日にも一杯だけ淹れられます。つわりの時期に「今日は飲めそう」と思ったタイミングで開けられる形は、思っている以上にありがたいものです。
毎月違う味を楽しみたいとき
家で過ごす時間が長くなると、同じ豆が続くのが少し退屈になってきます。京都発のKurasuのスペシャルティコーヒー定期便のように、焙煎したての豆が定期的に届く仕組みなら、買い出しに出られない日でも切らしません。デカフェを希望する場合は、申し込み時に取り扱い状況を確認しておくと確実です。
相談しながら選びたいとき
「酸っぱいのは苦手」「夜に飲みたい」といった要望を伝えて選んでもらうのがいちばん早い、ということもあります。常時30種ほどを自家焙煎するカフェ・ヴェルディのようなお店は選択肢が広く、好みの方向を伝えながら絞り込めます。リピート率が高いお店は、たいてい説明も丁寧です。
手間をできるだけ減らしたいとき
体調に波がある時期は、片付けの手間が一杯を諦める理由になります。カプセル式なら、粉の後始末がほぼありません。KEURIG(キューリグ)にはデカフェのカプセルがあり、2週間1,000円のお試しプランで実際の味と手軽さを確かめてから決められます。
器具から見直したいとき
デカフェは湯温や挽き目の影響を受けやすいので、注ぎをコントロールできる器具があると仕上がりが安定します。HARIO NETSHOPには細口ケトルやドリッパーが一通り揃っているので、手持ちの道具の穴を埋める用途にも使いやすいです。
デカフェをおいしく淹れる、3つの小さなコツ
挽き目はやや粗めに。 デカフェの豆は加工で組織がゆるんでいるため、同じ設定でも細かく挽けてしまいがちです。いつもより一段階粗くすると、渋みがすっと引きます。
湯温は少し低めに。 沸騰直後ではなく85〜88℃あたりを目安にすると、えぐみが出にくく甘さが前に出ます。
膨らまなくても気にしない。 デカフェは蒸らしのときにあまりふくらみません。これは劣化ではなく製法上の性質なので、蒸らし時間を延ばさず、いつも通りのリズムで注いでください。
おわりに
デカフェ選びは、我慢の埋め合わせではなく、単純にコーヒーの楽しみ方がひとつ増えることだと思っています。製法という軸を持つと、袋の裏の一行から味の見当がつくようになり、買い物そのものが面白くなります。まずは水を使った製法のものを一袋。そこを基準点にして、好みの方向へ動かしていってください。
